• NEQTOでLTEの回線品質を把握する活用例

本記事のポイント

スマホでも感じるLTEの回線速度の低下や回線が切れる症状。

これらの仕組みの説明を交えながら、NEQTOを用いた回線品質を把握する事例と改善策を紹介します。



1. はじめに

LTEをはじめとするデジタル無線通信回線はQoS(Quality of Service)と呼ばれるルールに基づいて運用されており、概略ですが、QoSではリアルタイムで回線を確保して使用する必要がある音声通話が優先されております。そのためデータの通信にも種類に応じた優先順位はありますが、優先度に応じて空いている周波数、空いている時間でパケットの通信をおこなう仕組みになっています。

2. 回線品質に用いる指標

LTEでは回線を制御するためにいくつかの指標を用いております。

以下に説明する指標は、主にQoSによって回線品質維持のために制御されるパケット通信をおこなう際に用いられるものです。

RSSI

RSSIは英語表記のReceived Signal Strength Indicator(受信信号強度表示)の頭文字で表されます。

アンテナで受信されたLTEの帯域の全受信電力です。単位は[dBm]です。

RSRP

RSRPは英語表記のReference Signal Received Power (基準信号受信電力)の頭文字で表されます。

LTE通信を構成している基準信号の15KHzの帯域で受信された受信電力です。単位は[dBm]です。

RSRQ

RSRQは英語表記のReference Signal Received Quality (基準信号受信品質)の頭文字で表されます。

RSSIとRSRPから算出されるもので受信した基準信号の品質を示す指標です。通信時のeNB(evolved NodeBs:基地局)との間に存在する他のUE(User Equipment:ユーザー端末)との混雑度合い、干渉度合い、ノイズ量の指標です。単位は[dB]です。

SINR

SINRは英語表記のSignal-to-Interference-plus-Noise Ratio(信号対干渉波雑音比)の頭文字で表されます。

受信した信号のうち、所望信号の電力とそれ以外(干渉波あるいは雑音)との電力比です。単位は[dB]です。

RSSI
>-30dBm 非常に強い
-30 to -60dBm とても強い
-60 to -70dBm 強い
-70 to -80dBm 弱い
<-80dBm とても弱い

図1. RSSIの数値判定目安

RSRP
>-60dBm 非常に強い
-60 to -90dBm とても強い
-90 to -100dBm 強い
-100 to -110dBm 弱い
<-110dBm とても弱い

図2. RSRPの数値判定目安

RSRQ
>-6dB 非常に良い
-6 to -10dB とても良い
-10 to -15dB 良い
-15 to -20dB 悪い
<-20dB 非常に悪い

図3. RSRQの数値判定目安

SINR
>20dB 非常に良い
20 to 10dB とても良い
10 to 0dB 良い
<0dB 非常に悪い

図4. SINRの数値判定目安
各指標の数値は下記を参考
Radio Network Area : モバイルテクノ (fujitsu.com)

3. 実施例 NEQTO Bridge LTE-1 Moduleを用いた回線品質の確認

実際に回線品質の確認をおこなうため、NEQTO Bridge LTE-1 Moduleを用いて、搭載しているGPS(GNSS)で位置データと組合わせて山間部、住宅地、地方都市、首都圏の各地点での回線品質の各指標のデータを取得しました。

なお、ここで掲げるデータはLTEが接続したBand(周波数帯)や、eNBとの距離などの条件が確認できないため、無線区間での回線品質を比較する上では必ずしも同一条件下での結果を満足しているものではありません。実施が可能な範囲での傾向として扱っていただければと思います。

Date (UTC) 北緯 東経 RSSI RSRP RSRQ SINR Cell ID
山間部 2022/9/18 1:28 38.987992 140.909999 -89 -122 -9 2 168096769
住宅地 2022/9/16 23:47 38.972533 141.119961 -61 -89 -10 2 168041985
地方都市(盛岡駅周辺) 2022/9/13 22:05 39.701104 141.137551 -51 -76 -8 4 183226896
首都圏(東京駅周辺) 2022/9/14 10:18 35.680357 139.767591 -51 -76 -10 8 46383122

図5. 各ポイントの測定データ
※RSSIは受信電界強度が-51dBm以上の場合は-51dBmと表示されるため参考外としてください。

図5で取得したデータの傾向から、 受信電界の強度としてのRSSI、RSRPはeNBの設置の密度より都市部から離れるほど数値が下がっていくという傾向がみられます。また、受信電界強度と合わせて干渉波、妨害波、ノイズとの比率、およびRE、RBの使用状況から算定されるRSRQ、SINRはトラフィックや時間帯などの周辺の条件で刻々と変動する要素があるので、測定時の状況ととらえて下さい。

通信会社はこれらの指標をふくめた運用上のノウハウからeNBを効率よく適切な配置しているかと思われます。
通信をするうえで一般にはあまり目にする指標ではありませんが、NEQTO Bridge LTE-1およびNEQTO Bridge LTE-M/NBではこれらの指標を扱うことが可能です。用途によっては有効な指標になりますので参考にしていただければと思います。

また、この後に改善策を記載しておきました。通信状況を少しでも改善させる手段として改善の度合いに応じた案となっておりますので、参考にしていただければと思います。

山間部の測定ポイント

図6. 山間部の測定ポイント

住宅地の測定ポイント

図7. 住宅地の測定ポイント

盛岡駅周辺の測定ポイント

図8. 盛岡駅周辺の測定ポイント

東京駅周辺の測定ポイント

図9. 東京駅周辺の測定ポイント

回線品質向上のための改善策


1:位置を変える
山間部の場合は山に、都市部などでも建物内や高層建築物などでeNBからの電波が遮蔽されて弱電界になってしまう場合があります。このような場合、可能な範囲でeNBを見通せる場所に移動します。あるいは、eNBを視認できない場合はアンテナ(あるいはUE)の向きを90度の範囲で向きを変える(これはアンテナの偏波面を変えて指向性の高い方向を探るという行為です)ことが有効です。また、アンテナの高さの位置を高くすることで効果がある場合があります。

2:アンテナを変更する
アンテナ利得が高い、あるいは指向性のあるアンテナに変えることで改善する可能性があります。ただし、この場合は電波法に抵触する場合があるので変更に際しては使用しているUEを製造している製造事業者が総務省に届け出ているアンテナから選択するということになります。変更に際しては製造事業者へ確認してください。


参考)内蔵アンテナと外付けアンテナ、向きによる違い

以下に、アンテナによる簡易的な指標の遷移ということで、内蔵アンテナと外付けアンテナ、それと向きによる違いを確認しておりますので参考にしてください。

使用したアンテナは下記2点です。いずれも使用しているModule ( SIMCOM社製:SIM7500JC )で認証を取得しているアンテナです。
その他の条件としては受信時に同じ場所で同じCell IDの基地局からの電波を受けていることとしています。

製造者 型名 仕様
内部アンテナ Ignion NN03-310 698-960MHz 1.1dBiピーク 1710-2690MHz 2.45dBiピーク
外部アンテナ 日本アンテナ WH-08/2G-L 700-1500MHz 3.0dBiピーク 1700-2000MHz 2.15dBiピーク 2500MHz 3.3dBiピーク

図10. 使用したアンテナの主な仕様

イメージ RSSI RSRP RSRQ SINR
内部(垂直) 内部 (垂直) -51 -86 -12 0
内部(水平) 内部(水平) -51 -81 -12 0
外部(垂直) 外部(垂直) -51 -80 -12 2
外部(水平) 外部(水平) -51 -75 -11 4

図11 内部・外部アンテナでの回線品質指標
※白いケーブルで引き出されているのはGPS(GNSS)の外付けアンテナです。
※データを取得した環境は強電界にありRSSIは搭載しているModuleの仕様でー51dBm以上では-51dBmとしか表示されないので参考外としてください。

内部アンテナ (垂直)」<「内部アンテナ (水平)」<「外部アンテナ (垂直)」<「外部アンテナ (水平)」の順で受信電界強度を示すRSRPの値が向上しています。外部アンテナ(水平)と内部アンテナ(垂直)で10dBほどの差が生じています。

その他のRSRQ、SINRについては測定時の干渉波、妨害波、ノイズなどの状況の差があります。ここではアンテナの置き方、向きで受信電界の違いを目的としておりますのでRSRQとSINRについては参考としてください。

【改善策】で述べた通り空間の状況や条件で様々変化はしますが、図12の結果の比較からもアンテナの種類、置き方などでも改善する余地がある場合がありますので参考にしてください。

4. 最後に

今回はLTEなどで回線品質の指標として用いられるRSSI、RSRP、RSRQ、SINRの説明と、異なる場所での実機の動作を、NEQTO Bridge LTE-1 Moduleの機能で取込んだ各指標が示す意味合いなどを交えて説明をさせていただきました。

また、説明の中で触れましたとおり、NEQTO Bridge LTE-1 Moduleを使用して搭載しているGPS(GNSS)の機能と合わせて、任意の場所での回線状況を確認する一例もご紹介しました。

回線品質の状況を把握することはUEを使用する場所、設置する場所で重要な要素です。また、用途としては回線品質の指標の数値のみを把握するという利用方法だけではなく、その他のNEQTO Bridge LTE-1およびNEQTO Bridge LTE-M/NBの活用方法の一助にもなるのかとも思いますので、是非 参考にしていただければと思います。