• アンテナの特性とNEQTOの利用方法のご紹介

本記事のポイント

IoT-CoreエンジンNEQTO対応のハードウェアにはLTE、Wi-Fi、GPS(GNSS)(以降「GPS」と表記します。)という通信方式を搭載しています。

ここではそれぞれの通信方式の特質とアンテナの観点から有効な、NEQTOの活用方法をご紹介します。



1. はじめに

すでに多くの方々がスマートフォンやパソコンでLTEやWi-Fi、GPSなどの通信方式に触れられていると思います。ここではこれらの通信方式と特質に見合ったアンテナの観点からNEQTO対応ハードウェアの有効な活用方法をご紹介します。

なお、NEQTO対応ハードウェアと使用しているアンテナを図1から図3に示します。


Wi-Fiアンテナ(SD-NQ-WiFi Module & 拡張キット)

三信電気様 SD-NQ-WiFi Module & 拡張キット

図1.三信電気様 SD-NQ-WiFi Module & 拡張キット

GPS・LTE共用アンテナ(SD-NQ-LTE1 Module & 拡張キット)

三信電気様 SD-NQ-LTE1 Module & 拡張キット

図2. 三信電気様 SD-NQ-LTE1 Module & 拡張キット

GPS・LTE共用アンテナ( HDK NQ LTE-1)

北陸電気工業様 HDK NQ LTE-1

図3.北陸電気工業様 HDK NQ LTE-1

2. 衛星からの電波「GPS」におけるNEQTO活用

GPSを活用する際は、衛星からの微弱な電波をいかに捉えるかが課題です。 理想的な条件を述べると、天空を見渡せる場所での使用。これを確保されることが一番です。 しかし、商用、学術的な用途などで精度が求められ固定されて天空が見渡せる場所に使用されるケースなどを除き、一般的な用途ではモバイルあるいは半固定的な用途がほとんどです。

NEQTO対応ハードウェアであるSD-NQ-LTE1 Module & 拡張キット(図2)とHDK NQ LTE-1(図3)のGPSアンテナは、LTEと共用の内蔵アンテナを搭載しています。天空が見渡せる屋外や窓際などの整った条件下では内蔵アンテナでも機能しますが、それ以外の場合は衛星からの微弱な電波を受信することを考慮すると外付けアンテナの使用を推奨しています。

SD-NQ-LTE1 Module & 拡張キットとHDK NQ LTE-1では、基板上の定数変更が伴いますが、市販されているGPS用のパッシブとアクティブの両方のアンテナに対応することが可能です。


パッシブアンテナとは

パッシブアンテナとは半導体による増幅機能を持たないアンテナです。基板やフレキシブルケーブルにアンテナパターンを印刷したものや積層セラミックで構成されたチップアンテナ、誘電体を使用したパッチアンテナなどがあります。

図4にパッシブアンテナの一例を示しています。これはフレキシブル基板にアンテナパターンを印刷したダイポールアンテナのタイプです。アンテナにはアンテナ利得と呼ばれる特性があり、特性、性能が良いとその数値が高いとされています。

一般に購入できるパッシブアンテナはアンテナ利得がおおむね2~5dBiの範囲のものが主流です。

パッシブアンテナの一例

図4.パッシブアンテナの一例

アクティブアンテナとは

アクティブアンテナは、身近なものですと車載ナビの外付けアンテナがこのタイプです。図5はその一例です。車載ナビなどの外付けアンテナの場合はプラスチックのモールドケースの構造ですが、中に入っているものは、これと同等のものが収納されています。

図5のアクティブアンテナは誘電体に印刷したパッシブのパッチアンテナと半導体によるLNA(Low Noise Amplifier : 低雑音増幅器)と呼ばれる増幅器を組み合せたもので、多くの市販のアクティブアンテナは図5のような構造をしています。アンテナ利得は組合わせている増幅器に依存するところが大きいですが、一般に購入できるアクティブアンテナはおおむね10dBiを超えるものが多いです。

アクティブアンテナの利用で、留意すべき点

また、アクティブアンテナを使用する際に留意すべき点があります。アクティブアンテナはアンテナ利得が高いため、必要以上にアンテナ利得の高いものを選定すると飽和といった現象でGPSの受信系が本来持っている性能を劣化させてしまう恐れがありますので留意してください。

アクティブアンテナの一例

図5.アクティブアンテナの一例

3. 広い周波数範囲「LTE」におけるNEQTO活用

NEQTOのLTEでは800MHzから2.2GHzあたり(4GのFDDを対象としています。)までと広い周波数範囲を使用して通信をおこなっています。厳密にはバンドと呼ばれる800MHzから2.2GHzほどの範囲に設定された周波数帯を使って通信をおこないます。広い周波数範囲を使用して通信するためアンテナは広い周波数範囲で設計したものを使用します。

多くのLTEの端末に採用されているアンテナは基本的な構造としてモノポールタイプのアンテナです。しかし、基本的なモノポールアンテナの構造では狭帯域です。

そのため、広帯域にわたって整合された特性を得るため、ミアンダパターンやスロット状の切り込みを入れたパターンなど複雑な構造や形状を組み合せることで広帯域のアンテナとしての特性を引き出すことをおこなっています。

SD-NQ-LTE1 Module & 拡張キットとHDK NQ LTE-1のパートナー様LTE Cat.1対応製品では、積層基板で構成させれたチップアンテナを採用しています。図6-①と図6-②に示すIgnion社製のアンテナです。広帯域化を実現するために積層基板上には前述のような工夫が施されていて、必要な周波数帯に特性が整合された配線基板を積重ねて形成しています。

① LTE Main / GPS用アンテナ NN03-310

LTE Main / GPS用アンテナ NN03-310

② LTE Sub用アンテナ NN02-224

LTE Sub用アンテナ NN02-224

図6. 選定したアンテナ(Ignion社サイトより引用

図6-①のNN03-310は広帯域のマルチアンテナとしてLTEとGPSに対応した2ポートのアンテナで、LTEは824-960MHzおよび1710-2170MHzと主要なLTEのバンドをカバーしていることとGPSの1.5GHz帯もカバーしているタイプです。

また、図6-②のNN02-224についてはダイバーシティのサブアンテナのためLTEの周波数帯のみをカバーしていて、GPSは対応していません。

NEQTO対応ハードウェアで推奨する構造

なお、NEQTO 対応ハードウェアをケースなどの中に収納して利用する場合や使用する場所の条件によっては、アンテナの性能が確保できずに通信がしづらくなる場合があります。

NEQTO対応ハードウェアではそのような状況を想定して基板上の定数変更が伴いますが、外付けアンテナでの使用を推奨します。

外付けアンテナは、基本モジュールメーカが総務省に届け出ているアンテナから選定してください。
届け出の無いアンテナを使用する場合は、モジュールメーカへ相談の上、総務省にアンテナ追加申請をおこなう必要がありますため、選定に際してお悩みの場合はご相談いただければと思います。

4. 2.4GHz帯と5GHz帯「Wi-Fi」におけるNEQTO活用

Wi-Fiは使用する周波数帯がISM( Industrial, Scientific and Medical )バンドと呼ばれる免許が不要(利用する人の免許が不要ですが、使用する機器は総務省の認証は必要です)で、市販している機器を購入すれば通信の利用が可能となる周波数帯を使用しています。

そのため、Wi-Fi以外にも多くの方式の通信が使用される周波数帯となるため、場所によっては妨害波や干渉波が多い場合やアクセスする端末が多い場合などには通信速度が極端に遅くなり、使用できなくなる場合もあります。LTEでも時々発生する事象ですが、Wi-Fiではその頻度は高いです。

NEQTO対応ハードウェアのSD-NQ-WiFi Module & 拡張キット(図1)では選定しているモジュールに既に金属板で成形された逆F型の内蔵アンテナが搭載されています。

逆F 型アンテナは2.4GHz帯と5GHz帯のマルチバンドに対応したアンテナです。固定で取り付けられているために外付けアンテナに切替えることができません。そのため少しでも安定した通信を確保する方法としてアンテナの特質から以下の対処があげられます。

※逆F型のアンテナの詳細については下記を参照してください。
ProAnt PIFA - 板状逆F型アンテナ | DigiKey

安定通信を確保する方法① 接続相手との位置を変更

接続相手との距離や位置を変えるということがあげられます。特にオフィスや室内などの環境ではマルチパスなどの影響から少し位置を変えただけでも効果がある場合があります。

安定通信を確保する方法② アンテナの偏波面を変更

アンテナの偏波面を変えてみる方法があります。これは通信相手に対して図7-①と図7-②が示すように既に置いてある状態からアンテナを90度ほど回してみることがあげられます。ただし、機器内のアンテナの種類、取付け方などによっては効果がない場合があります。

① 端末を水平方向に設置

端末を水平方向に設置

② 端末を90度回転させて設置

端末を90度回転させて設置

図7. 90度向きを変えるイメージ

※ルーターなど可動式のアンテナが設置されていて自在に変えることが可能な場合は端末の側ではなく、ルーター側のアンテナの向きを変えることでも可能です。一方との位相方向を90度変えられることが肝要です。

安定通信を確保する方法③ 通信相手を高所に設置

通信相手を高所に設置することで通信を行う相手との間に遮蔽物や障害物がない状態で利用するなども利用に向けた改善の方法です。これは前述の接続相手との距離や位置を変えるということとも関連しますので、もう少し具体的な説明をします。

フレネルゾーンを確保する

電波伝搬の特質として図8に示すようにフレネルゾーンというものがあります。フレネルゾーンとは見通しを示すゾーンであり、フレネルゾーンが確保されていれば自由空間での電波伝搬の理論値に近い値になるものです。

  • 通信をおこなう上でアンテナから送出される電波には周波数に応じた楕円形の半径と距離のゾーンの空間内に障害物、遮蔽物などがないことが理想的とされています。この楕円形のゾーンをフレネルゾーンと呼んでいます。これはWi-Fiに限らず電波を利用する通信全般で言えることです。例えば、より遠くに電波を届ける必要がある一般のラジオやテレビなどの放送波でも、鉄塔や山の頂上、ビルの屋上などの高所にアンテナを設置して送信をおこなう理由のひとつとしてあげられます。無線通信をおこなう上では重要な要素のひとつです。
フレネルゾーンのイメージ

図8. フレネルゾーンのイメージ
※フレネルゾーンは同一周波数の場合 送受信間の距離が離れるとフレネルゾーン半径は大きくなる。

Wi-Fiを使用する際のアンテナの性質にまつわる改善策としては以上です。


安定通信を確保する方法④ 2.4GHz帯、5GHz帯を使い分ける

アンテナの特性とは異なる対策方法として、対応している機器では2.4GHz帯、5GHz帯を使い分けるという方法もあげられます。

  • 5GHz帯は周波数が高いために伝搬距離が2.4GHz帯より短いことから、2.4GHz帯を使用する機器、端末が多い。
  • 電波法上 5GHz帯は屋外での使用に制限があること。
  • 2.4GHz帯しか対応していない機器、端末が多いこと。
  • 2.4GHz帯ではWi-FiのほかにBluetooth、Zig Beeあるいは電子レンジなどの機器が使用している周波数帯であること。

以上の要因から主に2.4GHz帯で通信がしずらい場合があります。そのような場合に5GHz帯を使用することでスムーズに通信ができるようになることがあります。

稀に5GHz帯が混雑している場合もあります。 いずれの場合も使用する場所で2.4GHz帯と5GHz帯を切替えることで改善することがありますので確かめてみてください。

5. 最後に

無線通信の状況が刻々と変化するのはなかなかわかりづらいですが、実は普段の生活の中で無線を扱った環境下で違いを感じることが意外にあるものです。

例えば、カーラジオで聴く、特にAM放送です。同じ周波数の放送局を聴いていても街中でノイズ交じりに聴こえていた放送が街から離れるに連れてクリアに聴こえるようになったり、トンネルに入ったり、防音壁などに囲まれると聴こえにくくなる。テレビでも特に夏場にBSを視ている最中に雷を伴った激しい雨が降ると衛星からの電波が降雨減衰で視聴できなくなると言った現象などです。

いずれの場合も電波の性質と通信をおこなう相手との間の環境、状況などによって発生する事象です。意識しないと感じにくいことですが実際に無線を使用して通信をおこなう場合にはこのような現象が通信の品質の劣化要因となってきます。

しかし、電波やアンテナの特質を把握していればすべてをクリアできるわけではありませんが、改善する方法はいくつかあります。

NEQTO対応ハードウェアでもGPS、LTE、Wi-Fiで扱っている電波の周波数帯、帯域、変調方式などがそれぞれ異なります。実装する通信の品質を確保するためには使用する環境下などに加えてアンテナの適切な選択と使い方が重要な点になってきます。

末筆ながら本記事がNEQTOを利用していただくきっかけとなれば幸いです。